動物園にて

「おじいちやんは いまごろ
 どこらへんを歩いているんだろうな、
 もう死んでいるのかなあ」
と、遠くにいる四歳の孫娘が考えた時
その時
じいさんはばあさんと
二十年ぶりに動物園に行つて
ゴリラの檻の前に立つていた
「ほら ばあさんや、
 ゴリラという奴は、何かやる前に
 ちやんとやり方を考えるね。えらい奴じや
 のう」
「まあ、ほんとにそうですね。あなたより
 よつぽどえらいようだよ」
二人はとぼとぼと手を握りあつて
満開の桜の花の下をあるいていつた

蔵原伸二郎
岩魚」所収
1955

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