金ばかりを借りて
歩き廻っているうちに
ぼくはある日
死んでしまったのだ
奴もとうとう死んでしまったのかと
人々はそう言いながら
煙を立てに来て
次々に合掌してはぼくの前を立ち去った
こうしてあの世に来てみると
そこには僕の長男がいて
むくれた顔して待っているのだ
なにをそんなにむっとしているのだときくと
お盆になっても家からの
ごちそうがなかったとすねているのだ
ぼくはぼくのこの長男の
頭をなでてやったのだが
仏になったものまでも
金のかかることをほしがるのかとおもうと
地球の上で生きるのとおなじみたいで
あの世も
この世もないみたいなのだ
山之口貘
「山之口貘詩集」所収
1953