ふるさとの小川は いまも
澄んで流れているだろうか
さらさら さらさら と音もなく
白砂を運んでいるだろうか
きゅるきゅる きゅるきゅる と忙しく
川底の玉石を磨いているだろうか
すばやい鮠の子たちを
光の紐で捕えたり放したりしているだろうか
夕月の影をこなごなに砕きながら
ミソハギの白い根を洗っているだろうか
少女に逢う日
燃える肌を浸して漱ぎ浄めたあの朝のままに
沁みとおるように冷たいだろうか
戦さに出で立つまえを
眠れなかった一夜のように
かなしい子守歌をうたっているだろうか
ふるさとの小川は いまも
澄んで流れているだろうか
わたしの中を
ひとすじに流れつづけているそれのように・・・
磯村英樹
「水の女」所収
1971