ゆめ(三)

”とぶゆめ”をしばらくみない
といふはなしをしたら その夜
久しぶりに ”とぶゆめ”をみた

いつものやうに
高度は十五メートル位
塔の屋根から屋根へとんで
誰もゐない部屋をのぞきこんだり
電線をくぐったり
樹の枝にやすんだり
ヘリコプターを追ひかけたり

泳ぐゆめならみたわ
でもとぶゆめなんて一度もーー
とあのひとが言ったとき
わたしはふと胸をつかれた
(日常が そんなに重くて?)

反対かもしれない
日常が重いからこそ
わたしたちはゆめでとぶのかもしれない
それに とぶゆめといふものは
蝶のやうにいい気持とは限らない
むしろ たいていは怖いゆめだ

それでも
あのひとに 一度ぐらゐは
ゆめのなかでとばせてあげたい
蝶のやうにかるく
鳥のやうにするどく

ああゆめのなかでは
愛も 憎しみも
恐怖さへも かがやいてゐる
ぴすとるをしっかりと握って とべ
墜落のやうに烈しく

吉原幸子
「夢 あるひは…」所収
1976

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