わが半生

私は随分苦労して来た。

それがどうした苦労であったか、

語ろうなぞとはつゆさえ思わぬ。

またその苦労が果して価値の

あったものかなかったものか、

そんなことなぞ考えてもみぬ。

 

とにかく私は苦労して来た。

苦労して来たことであった!

そして、今、此処、机の前の、

自分を見出すばっかりだ。

じっと手を出し眺めるほどの

ことしか私は出来ないのだ。

 

   外では今宵、木の葉がそよぐ。

   はるかな気持の、春の宵だ。

   そして私は、静かに死ぬる、

   坐ったまんまで、死んでゆくのだ。

 

中原中也

在りし日の歌」所収

1936

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