暗い夏の晩

暗い夏の晩だつた

街のなかもまた妙に暗かつた

どこかに祭でもあるらしく

多勢の人手がみな黒い影になり

賑かに行き来してゐた

私もその中にまじりながら

ひとりであるいてゐた

なんだか人々の背後の世界を歩いてゐるやうな気がしてゐた

或る町角へくると

戸板の上に蝋燭をたてて売つてゐるのがあつた

消えることのない蝋燭だといふのであつた

いくほんもたち並んでゐる蝋燭の灯が

暗い風にゆれなびきながら

消えることがなかつた

 

高橋元吉

高橋元吉詩集」所収

1962

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