きみは聞いただろうか
はじめて空を飛ぶ小鳥のように
おそれと あこがれとで 世界を引きさくあの叫びを
あれはぼくの声だ その声に
戦争に死んだわかもの 貧しい裸足の混血児
ギブスにあえぐ少女たちが こだましている
愛をもとめて叫んでいるのだ
きみは見ただろうか
ぼくがすすったにがい蜜を 人間の涙を
この世に噴きあげるひとつのいのちを
あれはきみの涙だ そのなかに
夢を喰う魔術師 飢えをあやつる商人
愛をほろぼす麻薬売りが うつっている
その影と ぼくらはたたかうのだ
おお なぜ
ぼくらは愛し合ってはいけないのか
ほんとうにあの叫びを聞いたなら
ほんとうにあの涙を見たのなら
きみもいっしょに来てくれたまえ
遠い国で
ぼくらがその国の最初の二人になろう
木原孝一
「木原孝一詩集」所収
1956