悲劇

京浜国道を霊柩車が走ってきた。
私が歩いてゆく、前方から

と、
運転台と助手台で
二人の男が笑っている
何やら話しながら
ことに助手台に坐っている赤ら顔の大男が
まことに愉快そうに
ワッハッハと、声がきこえそうな表情で
笑っているのである。

静かな運転
霊柩車は私のかたわらを通り過ぎてゆく
うしろには柩がひとつ
文句のないお客様である。

そのあとから色の違うタクシーが三台続いた
いずれ喪服の親類縁者
ひっそりさしうつむいて乗っている
それも束の間
葬列はゆるやかに走り去っていった。

「駄目だ」
私は思わず振り返り、手を挙げて叫んだ、
芝居の演出者のように
「やり直し
も一度はじめから
はじめから出直さないことには!」

広い大通りのまんなか
である。

石垣りん
私の前にある鍋とお釜と燃える火と」所収
1959

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