白い小さな花がいつぱい咲きこぼれている
掃き溜めのところで
(背のびをすれば曙の海の見える)
あの胴長女が言つたことを思い出すがいい
そして急いで自分の家に帰つてみることだ
もうまる三週間も汐かぜに吹かれていたのだから
罵りさわいだ腹の虫もすつかりおさまつているだろう
それ以上 本当にそれ以上遠いところのない心のはてに来たのだから
その深い悲しみを話してみるがいい
誰にというのか
誰もいなければやつぱりきみ自身に話すことだ
もしきみがいなかつたら
もしきみがいなかつたらと言うのか
それから先きはぼくにはなにも分らない
嵯峨信之
「愛と死の数え唄」所収
1957