戦争へ行つたまま四年になるのに
良人はまだ帰つてゐなかつた
彼女はその日よもぎを摘みに出た
一番末の子をおんぶして
八つの姉娘と五つの子は家で
絵本を見て乏しい昼餉を待つてゐた
よもぎは線路の近くに随分あつた
彼女が時を忘れるほど
電車の音がしたとき
彼女が線路を避けたとき
そのとき彼女は足元に蛇を見た
思はずとびのき彼女の頭は電車にふれた
頭をくだいて彼女は死んだ
あたりの山に青葉噴く五月のまひる。
杉山平一
「声を限りに」所収
1967
戦争へ行つたまま四年になるのに
良人はまだ帰つてゐなかつた
彼女はその日よもぎを摘みに出た
一番末の子をおんぶして
八つの姉娘と五つの子は家で
絵本を見て乏しい昼餉を待つてゐた
よもぎは線路の近くに随分あつた
彼女が時を忘れるほど
電車の音がしたとき
彼女が線路を避けたとき
そのとき彼女は足元に蛇を見た
思はずとびのき彼女の頭は電車にふれた
頭をくだいて彼女は死んだ
あたりの山に青葉噴く五月のまひる。
杉山平一
「声を限りに」所収
1967