ある孤独

座っているのは彼の子どもたち。
包んであるのは骨壷だ。
写真のまえの
甘いものをつかんでむしゃむしゃ食う。
誰かついでくれたウィスキーをぐいとひっかける。
さびしくも口惜しくもなく。
──死んじまいやがって。
このしらじらしいおもいは
死んだやつにはわかるまい。
「いい人でしたねエ」
それっぽっちの無内容な回想言葉で
誰かれの記憶のなかに
うすっとぼけてゆくだけのものとなりおわった。
今夜ここで呑んでいるのは生きているものの特権だ。
すっぱぬきも
おひゃらかしも
おまえのかくしばなしも酒のサカナ。
つゆどきにしては また凄い雨が降るものだ。
死んでしまってはなにも知らぬということが無性にシャクにさわるのだ。
生きて残っているものがバカを見る。
こんな死んだやつも背負って
立って歩かねばならない。

秋山清
ある孤独」所収
1959

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