ビオラという楽器はバイオリンよりひとまわり大きなからだをして、バイオリンの兄貴分だが、気弱な兄貴のように内気で控えめで遠慮深い。彼は弟のように決して高声で語らないし、また弟のようにソロで語ることもすくない。いつも傍らにあって、励ますように頷いてやり、宥めるようにさりげなく注意してやる。自分を知り自分の性質をわきまえ、ひきたて役で満足している。その声も語りかけもいつも物静かでおだやかだ。彼に耳を傾けながら私はときにじれったいおもいもする。
大木実
「夜半の声」所収
1976
ビオラという楽器はバイオリンよりひとまわり大きなからだをして、バイオリンの兄貴分だが、気弱な兄貴のように内気で控えめで遠慮深い。彼は弟のように決して高声で語らないし、また弟のようにソロで語ることもすくない。いつも傍らにあって、励ますように頷いてやり、宥めるようにさりげなく注意してやる。自分を知り自分の性質をわきまえ、ひきたて役で満足している。その声も語りかけもいつも物静かでおだやかだ。彼に耳を傾けながら私はときにじれったいおもいもする。
大木実
「夜半の声」所収
1976