時計

いささか深く、酩酊し
足音忍ばせ、居間に入れば
卓上に、紙片あり。
おとうさん、宿題なので
詩を書きました
これでいいの?
みてください。
なになに
(とけいって
 ふしぎだな
 なにも しなくても
 いまなんじだか
 みれば わかる
 ふしぎだな)

ほんとに、不思議だな。
男が、ひとり
真夜中に、
詩を読んで
壁の時計をながめてる。
自分の家が、めずらしく
四方八方、眼をすえて
にらんでる。

不思議、だな。

辻征夫
鶯――こどもとさむらいの16篇」所収
1990

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