放尿という言葉は
体温のあたたかみをもって
わたしの心を油断させる
あれは
記憶のはじまりに ちかい頃
男の人が
立ったまま用を足すのを見て
わたしにも できる気がした
想像していたようには上手くいかず
こっぴどく叱られた
あのとき わたしが持っていた
猿の手足のような柔軟性
内股をつたう温度は
いつ進化したのか
入院して検査を受けた時
トイレへ行くことを制限された
看護師は慣れたようすで
寝たまま、してくださいね
と言って
尿瓶をおいていった
ただひとつの事に
あんなにも心をしぼられたことはなかった
白くなり黒くなり
暑くなり寒くなった
タオルを絞ると思いだす
ジャムを開けると思いだす
なおらない右手の中指のつき指
してしまったことと
できなかったこととが
入らない指輪のように
時々 わたしの胸をかすめる
あんずの花の色が
月に滲んで沁みだすように
わたしの人間と性が
言うことを聞かずに
ちょっと めくれるのかもしれない
くつずり ゆう
現代詩投稿サイト「B-REVIEW」より転載
2017
「長いつき指」は現代詩投稿サイトB-REVIEWで2017年11月大賞に選ばれた作品です。
B-REIVEWは現代詩の投稿サイトで、掲示板による詩の合評を行っています。今、大変熱く盛り上がっています。
URLは下記です。
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当サイトでは、その内の幾つかを掲載させていただくことになりました。
協力しあいながら、現代詩の世界を広げていけたら、と思っております。