すでにかの女は
不思議な野山の匂ひをもち
夜半の
発光する奇蹟をたつぷり身にふくむでゐるやうな
眼をひかり
のろり、のろりと家の深みを歩いて
どこかあいらしい鬼狐の友だ。
瓜をたべると
ものの隅に跼り、髪をたれて
もう夢を見てゐる
幼いやうな、悲しいやうな
だんまり、むつつり
うしろは、へんに茂つた
ふかい田舎の歴史がぼうぼう
どこかに泥をふくむで
ぢつとしたかの女は、
もう
梢に半月をもつた宵の梟である。
佐藤惣之助
「情艶詩集」所収
1926
すでにかの女は
不思議な野山の匂ひをもち
夜半の
発光する奇蹟をたつぷり身にふくむでゐるやうな
眼をひかり
のろり、のろりと家の深みを歩いて
どこかあいらしい鬼狐の友だ。
瓜をたべると
ものの隅に跼り、髪をたれて
もう夢を見てゐる
幼いやうな、悲しいやうな
だんまり、むつつり
うしろは、へんに茂つた
ふかい田舎の歴史がぼうぼう
どこかに泥をふくむで
ぢつとしたかの女は、
もう
梢に半月をもつた宵の梟である。
佐藤惣之助
「情艶詩集」所収
1926