あくびの子ども

だまって
通る人を
見あげ見おくっている。
この六つくらいの子どもを
ぼくは自分の幼い子とくらべた。
しろい肩がみえ
メリヤスのシャツがやぶれている。
板きれをしいて
ズボンに下駄ばきのひざをだき、
ちいさな紙箱と
横にボール紙に
「私ノ父ハ軍属トナッテ――」と、六、七行かいてある。
止まる人も
読む人もない。
地下鉄からでてくる段々の中途で
人の足をとめるにはわるい場所だ。
いま出てきた人が
ひととおり途だえたとき。
両手をつきあげて
子どもは大きなあくびをして
ちょうどふりかえったぼくをみて、にこっとした。

秋山清
「象のはなし」所収
1959

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