追つかけられた話

 昼すぎに人通りのない坂路を歩いてゐると、右手にある大きな煉瓦建の倉庫のなかで、ガラガラツ・・・・と螺旋のもどるような音がした。するとそこにある8といふ番号のついた鉄の扉の下から、水のようなものが流れ出て、土にしみながら蛇のやうにクネクネうねつて足の下まで来たので、あはてゝからだをよけると、こんどはその方へ向きを変へて来た。で、反対の方へそらすとそこへもついて来る。逃げ出すと、それも又大へんな速さで追つかけて来た。一生懸命に畑の方へ走つたが、やつぱりついて来る。それがもう踵にとゞきさうになつて、自分は息が切れて倒れさうになつた時、ちやうど頭の上にさし出た樅の梢をめがけて、エイツと飛びつくと、水のやうなものは足の下を通りぬけて、一直線に半丁ばかり先の方にあつた馬車の下まで行つたと思つたら、馬も車も二寸ほどの破片になつて飛び散つてしまつた!・・・・

稲垣足穂
シヤボン玉物語」所収
1923

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