梅雨のみどりの中で
カキツバタがきれいだった
前に
こんな女のひとがいた
わたしはハサミで
その一本を切ってきて
机の上に挿した
まったく どこもかしこも
清潔にしていたひとだった
だが 急に
カキツバタは壺をぬけ出すと
みどりの中へもどっていった
あのひとのように
ながめられるので
はずかしかったのだろうか
わたしは後を追っていってさがした
カキツバタは数本
おなじかっこうをしていたが
はにかんだのですぐわかった
しかし どうしたのだろう
わたしのカキツバタは
お尻に長いゴムテープをつけていた
わたしはそのテープで
もどった理由がやっとわかった
あのひとも去っていったが
「会者定離」のそんなテープを
お尻につけていたのだろう 多分。
土橋治重
「STORY」所収
1958