子守の書

大きい魂は親の魂である
小さい魂は子の魂である
アワアワと小さい魂は言っている
アワアワと大きい魂は言っている
連れ添って飛んでいる親と子の間では
アワアワはアワアワだと分かるのだ
地上でだれかが小さい魂を呼んだ
小さい魂は大きい魂の制止を無視して
地表近くまで急降下した
岸辺には若草が萌えていた
川魚が銀色に光って見えた
小さい魂は歓喜してアワアワと言った
全速力で追ってきた大きい魂は
ひとことも言わずに小さい魂をつかむと
高空へ飛び去った
しばらくして高空で
大きい魂が小さい魂を抱えて
ゆったりと飛んでいるのが見えた
あそこでも小さい魂はアワアワと言っている
あそこでも大きい魂はアワアワと言っている

広部英一
「愛染」所収
1990

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください