空へ消える

手でそっとぼくに触れてみた
ぼくは昨日のぼくと全く同じものだ
一つつきりだ
ぼくに加わつたものは今日のこの顔ばかりだ
かなしいときに
うれしいときに
一日を静かに通りぬけていくこの顔だけだ
しかしいま何も持つていないぼくがどんなにそれに堪えているか
だが時には真白い空をたぐりよせて
ひねもすぼくをそれに縫い合せて
それから空の中へひと羽摶きはばたいて消え去つてしまうことがある

嵯峨信之
「魂の中の死」所収
1966

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