私の屋敷には秋の終り頃はぐれて一羽
柿の木のてっぺんに止まって残り実をつつく
小鳥がいる
子供たちがその小鳥に石を投げつけようとすると必ず「しっつ!」と
私の中で強く止めるものがある
妻となり 主婦となり 母となって 幾年
知らず知らず私は妻らしく母らしく主婦らしくなり
二十代 三十代 四十代と
着物も動作も髪型も変っていった
だのにこの変化についてこない
いつまでも私の中に
おきざりにされたままの少女がいる
人前にもどこへも顔を出すことの出来ないこの少女は
いつもこの屋敷の柿の木のてっぺんの
いずれの梢かに止まって飛び去らない
堀内幸枝
「不意の翳」所収
1974