ラブホテルの構造

馴染みの鮨屋の裏口の向いに
ラブホテルが出来たのでとうぜん話題は

そのことになった あの内部はいったい
どういう構造になっているのだろうか

そこは昔は原っぱで 少年たちは
丈高い草に隠れて少女たちと遊んだが

あるときダンプカーが来て大量の土砂を捨て
それが踏み固められて凸凹のある

眺望のいい空き地になり少年たちはもう
少女と遊ばなかった 少女は

急激におとなになってどこか遠くへ去り
少年たちも散り散りになったが

どういう風が吹いたのだろうか
数人が舞い戻ってしばらくすると

空地に工事が始まりラブホテルが出現したのである
それでその内部はいったい

どういう構造だろうかという問題だが
空想し(ある者は薀蓄を傾けて)論じあってるさなかに

この春N市の高校を出て来た見習いのアキラ君
出前に行こうと裏口を出た途端に向うからも

若い男女が出て来たので思わず尋ねてしまったそうだ
どんなだった?

男はアキラ君を睨み 可哀想に女性は
ハイヒールを鳴らして駆け去ったが

まじめなアキラ君はその後ろ姿に大声で言ってしまった
そういうイミじゃないんだよう! 内部は

どんなだったってきいたんだよう!

われわれにも 若くて どうしようもなく
おっちょこちょいの時代はあり

それはつい先日まで続いた感じだが
ようやく落着いた──と思ったらさにあらず

疲れただけだったんだ
こんどはぼくがアキラ君の眼の前へ

ぬっと出て来てみたいな もちろん
ラブホテルからだ

辻征夫
ヴェルレーヌの余白に」所収
1990

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