地下鉄

地下鉄のホームへ
階段を降りてたら若い二人が
柱のかげでキスするところ
女の顔がこっち向きだったものだから
ぼくとばっちり
眼があってしまった
女は顔を離してぼくを
びっくりした目付きで見つめ
このときぼくたちは知りあったってことになるのだろうか
微醺を帯びてたぼくは頷いて手を振り
女もちいさく
(男の頭のまうしろで)
手を振った
さようなら
会うは別れのはじめって
こういうことだね
ぼくはこれから
地下鉄へ
きみは男の唇へ
それから未知の
それぞれの人生の
果てへ

辻征夫
河口眺望」所収
1993

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