女を愛するとは
ひとりの女のすがたを描きかえることだ
また葡萄のひと房のなかに閉じこめることた
死からも水晶からも解き放つことだ
もう真つすぐに立つことができない女に
しずかな大理石の台座を与えよう
女の日日はむなしい心づかいに疲れはてて ふと
階段に立つていい知れぬ遥かなものを感じておもいにふける
こよいその庭でぼくは緑をささげる一本の樹だ
ぼくはゆたかな時を頭上にいただき
生命をいつも足もとにじかに感じて立つ愛の木だ
女を愛するとは
ほんとうの姿にたえず女を近づけることだ
神の姿を追つていくたびとなく描きかえることだ
嵯峨信之
「愛と死の数え唄」所収
1957