声と一緒に多分
おまえはことばも
捨ててしまうべきだったのだ
声を失くしたおまえのことばは
おまえの中で
なんと重たく疼かったことか
ことばはもうけっして
おまえの外へは出ていかず
いつもただ おまえの中にふりつもった
愛に熟れていこうとするおまえの
ういういしいからだの中で
閉じこめられたことばはおまえを閉じこめた
おまえにはわからなかったのだ
愛はからだからもはじまることなど
ああ だからこそ
おまえはいのちと引きかえに
ことばたちに望みを託したのにちがいない
おしげもなくなげ捨てた
おまえのうつくしいからだから
今
ときはなたれた愛のことばたちが
すきとおった泡になって
遠くさらに遠く
とびちっていくのがみえる
征矢泰子
「綱引き」所収
1977