ひとつの余白の多い手紙をあなたは読みふける
砂漠からながれでた青い流れのように
それを書いたひとのおもかげはもう跡かたもなく消えている
ふたりのあいだには匂うような日があつたのだろう
言葉すくなく語られている幸福が
いまあなたの顔をしずかにあげさせる
あなたはもつと空が明かるくなればいいとおもつているようだ
どこまでもつづいてる真白い空が
小さく区切られると
それはあなたの心のなかの遠い小さな空になる
そのひとはいまその空の下に立つている
そのひとのかすかなもの憂い動きを
あなたは遠い祖先のたれかの動きのように感じはじめている
嵯峨信之
「魂の中の死」所収
1966