青空

  1 

 最初、わたしの青空のなかに、あなたは白く浮かび上がった塔だった。あなたは初夏の光の中でおおきく笑った。わたしはその日、河原におりて笹舟をながし、溢れる夢を絵具のように水に溶いた。空の高みへ小鳥の群はひっきりなしに突き抜けていた。空はいつでも青かった。わたしはわたしの夢の過剰でいっぱいだった。白い花は梢でゆさゆさ揺れていた。

  2 

ふたたびはその掌の感触に
わたしの頬の染まることもないであろう
その髪がわたしの耳をなぶるには
冬の風はあまりに強い

わたしの胸に朽葉色して甦える悲しい顔よ
はじめからわかっていたんだ
うつむいてわたしはきつく唇を嚙む
今はもう自負心だけがわたしを支え
そしてさいなむ

ひとは理解しあえるだろうか
ひとは理解しあえぬだろう

わたしの上にくずれつづける灰色の冬の壁
空の裂目に首を出して
なお笑うのはだれなのか
日差しはあんまり柔らかすぎる
わたしのなかの瓦礫の山に こわれた記憶に

ひとはゆるしあえるだろうか
ひとはゆるしあうだろう さりげない微笑のしたで

たえまなく風が寄せて
焼けた手紙と遠い笑いが運ばれてくる
わたしの中でもういちど焦点が合う
記憶のレンズの・・・
燃えるものはなにもない!

明日こそわたしは渡るだろう
あの吊橋
ひとりづつしか渡れないあの吊橋を
思い出のしげみは 二月の雨にくれてやる

大岡信
記憶と現在」所収
1956

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