砂の思想

わたしの中でいつからか姿を消してしまった
ロプノール 多分そのためだろう
東から西へ 南から北へ
せわしなく移動する鳥の群
何はさて措き彼らの後を追わねばならない

もしも僅かに緑を添える蕁麻でもあれば
地下にせせらぎを響かせているであろう伏流を
その水脈の暗い曲折を想像できる
が 灼けつく光と赤茶けた石ばかりで
鳥の糞一つ落ちていない

考えてもみよ 実体が影をともなわぬ世界だ
朝 砂から出立し 夜 砂に沈む
砂の太陽だなんて大それた──
あらゆる影は蒸発して気配も留めない
まして比喩の影などは

ただ伏流が再び噴き出るかも知れない
わたしの地表 その万が一の地点を卜し
一夜の天幕を張ること その後はもう
言わずと知れたこと 襟首のあたりから
蕁麻が萌え出る夢を見る

星野徹
落毛鈔」所収
1985

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