ぼくらにある住家

ぼくの信ずるものを
信じてくれ。
ぼくらにある住家。
お前が裂く小さい魚。
鱗にちりばめる光。
なにもない皿の
青いパセリ。
それは日なのだ。
ぼくらなのだ。
ぼくの信ずるものを
信じてくれ。
扉をひらくようにしか
先が見えないぼくら。
ぼくはいつも感ずる、
ぼくらの手にある重みのように
朝が来た、
昼が動いた、
夜が沈んだ、と。
ぼくの信ずるものを
信じてくれ。
ぼくらにある住家。
火があり、
空があり、
時がある、と。
愛する者よ、
このたとえようもない
日々の事物の底で、
ぼくらはひろい世界を獲る、と

菅原克己
「日の底」所収
1958

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