娘の仮住まい
四畳半の離れで泣いている
さっきまで笑っていた
明かりが消え
向こう向きに横たわったまま
肩をふるわせ
それでも最後まで観るのだというように
テレビの画面は進行していた
森繁の演じる「恍惚の人」
午後には殺虫剤を抱いて
部屋のあちこちから湧き出るという
黒い虫と戦っていた
朝には
メモをとらせて
遺言を語り
花の終わった桜の土手
震えのやまない母とあるく
京橋川に架かる吊り橋
数歩歩いては立ち止まり
かすかな揺れに驚いて
幼子のように笑った
*
いつか「ソフィーの選択」を観た
ナチの死の扉に
どちらか一人を迫られて
咄嗟に娘の背を押し
息子を抱いた
そのように
他国の背を押す
過去の一ページ
広島を福島を忘れる
*
広島が好きだ
水は大きく空を映し
路面電車の窓から街はおおらかに広がり
むすめたちはよく笑い美しかった
瀕死の床から母が生還し
私が初めて詩を書くことを知った場所
母の傍らで母の詩を書いていると
「そげんあたまをつこうたらいかん」
と何度も何度もいまも
fiorina
現代詩投稿サイト「B-REVIEW」より転載
2017
当作品は現代詩投稿サイトB-REVIEWで2017年8月B-REVIEW大賞に選ばれた作品です。
B-REIVEWは現代詩の投稿サイトで、掲示板による詩の合評を行っています。今、大変熱く盛り上がっています。
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当サイトでは、その内の幾つかを掲載させていただくことになりました。
協力しあいながら、現代詩の世界を広げていけたら、と思っております。