果実

ひかりは手加減もなくためらいもなく
いたるところからさんさんとはいってきた
かたくとざしている内側の未熟を
ものなれたあたたかいゆびさきが
ゆっくりと愛撫すると
われにもあらずうっとりとやわらいでいくのだった
とじこめることでかたくまもってきた非熟の生硬さが
いなやもなくひかりにおかされてみちたりていくと
果実はもののみごとに完熟して
もうなんのこころおきもなく
みずからのおいしさだけに身ゆだねるのだった

征矢泰子
花のかたち 人のかたち」所収
1989

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