人を感動させるやうな作品を
忘れてもつくってはならない。
それは芸術家のすることではない。
少くとも、すぐれた芸術家の。
すぐれた芸術家は、誰からも
はなもひつかけられず、始めから
反古にひとしいものを書いて、
永遠に埋没されてゆく人である。
たつた一つ俺の感動するのは、
その人達である。いい作品は、
国や、世紀の文化と関係がない。
つくる人達だけのものなのだ。
他人のまねをしても、盗んでも、
下手でも、上手でもかまはないが、
死んだあとで掘出され騒がれる
恥だから、そんなヘマだけするな。
中原中也とか、宮沢賢治とかいふ奴はかあいそうな奴の標本だ。それにくらべて
福士幸次郎とか、佐藤惣之助とかはしやれた奴だつた。
金子光晴
「屁のやうな歌」所収
1962