斧の音がきこえる 斧の音の木魂がきこえる きれいにつみかさねられた空気の層がふるへて 樹木のなげきの身ぶりをつたへる ならべられた彼らの腕の切口に 樹脂が滲み出る 涙のやうに 木洩れ陽に光りながら・・・・
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ふかく打ちこんだ斧は しばらくは抜けない 樹木はしつかりと斧をつかまへるのだ あらはなその肌の傷口をかくさうとするやうに
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夏の日の午後
私はその樹の蔭でねむつた
本を読んだり 馬鹿らしい空想にふけつたりした
今日 ざはめく水のやうに
私は浴びる 伐り倒される樹木たちの影を
斧よ 鳴れ
さうしてはやく伐り倒せ その樹を
退屈で長かつたわが夏の日も
木下夕爾
「定本 木下夕爾詩集」所収
1966