ひとり暮し

一人では
生きてゆけないように
どうも人間はなっているらしい

群れて群れて生きてきた習性かしら
補いあってここまできた人類の遺伝子なのかしら
喜怒哀楽の桶のなか
ごろごろと泥つき里芋洗うよう
犇めきあって暮らすのが一番自然な
人の生き方なのかしら

ものごころついた時は
父と母と弟と四人で暮し(あの頃はよかった)
学生時代は寮生活 四、五人いっしょにわやわや暮し
結婚してからはあなたと二人
今はじめて 生まれてはじめて一人になって
ひとり暮し十年ともなれば
宇宙船のなか
あられもなく遊泳の感覚
さかさまになって
宇宙食嚙るような索漠の日々

手鏡をひょいと取れば
そこには
はぐれ猿の顔
ずいぶん無理をしている
寂寥がぴったり顔に貼りついて
パック剤剥はがすようにはいかなくなった
さりとて もう
ほかの誰かとも暮す気はなし
あなた以外の誰とも もう
しかたがない
さつまいもでも嚙りましょう

茨木のり子
歳月」所収
2007

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