月夜の浜べ

月夜の晩に、ボタンが一つ

波打際に、落ちていた。

 

それを拾って、役立てようと

僕は思ったわけでもないが

なぜだかそれを捨てるに忍びず

僕はそれを、袂に入れた。

 
月夜の晩に、ボタンが一つ

波打際に、落ちていた。
それを拾って、役立てようと

僕は思ったわけでもないが

   月に向ってそれは抛れず

   浪に向ってそれは抛れず

僕はそれを、袂に入れた。

 

月夜の晩に、拾ったボタンは

指先に沁み、心に沁みた。

 

月夜の晩に、拾ったボタンは

どうしてそれが、捨てられようか?

 

中原中也

在りし日の歌」所収

1938

One comment on “月夜の浜べ

  1. 月夜の晩に拾ったボタン
    それは希望か後悔か
    ベッタリ手あかに
    まみれた希望
    砂を掘って深く埋め
    月の光で消毒を

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