わたしを解き放ってください
わたしは ステインドグラスの影にそまった
床のうえの 小さなしみをみつめているのです
愛がこわい やさしさがこわい
かみつぶす思いの悔いがこわい
わたしをいのちに誘わないでください
わたしはどこへも行かない 笑わない
ここに このじっとしたひとりの場所に
わたしを解き放ってください
わたしの肩に手を置かないで
ふりむかせないで
わたしの見つめている小さなしみを
親切な 大きな掌で
ふいてしまわないでください
吉原幸子
「魚たち・犬たち・少女たち」所収
1975