夏は慌しく遠く立ち去つた
また新しい旅に
私らはのこりすくない日数をかぞへ
火の山にかかる雲・霧を眺め
うすら寒い宿の部屋にゐた それも多くは
何気ない草花の物語や町の人たちの噂に時をすごして
或る霧雨の日に私は停車場にその人を見送つた
村の入口では つめたい風に細かい落葉松が落葉してゐた
しきりなしに・・・部屋数のあまつた宿に 私ひとりが
所在ないあかりの下に その夜から いつも便りを書いてゐた
立原道造
「拾遺詩編」所収
1939
夏は慌しく遠く立ち去つた
また新しい旅に
私らはのこりすくない日数をかぞへ
火の山にかかる雲・霧を眺め
うすら寒い宿の部屋にゐた それも多くは
何気ない草花の物語や町の人たちの噂に時をすごして
或る霧雨の日に私は停車場にその人を見送つた
村の入口では つめたい風に細かい落葉松が落葉してゐた
しきりなしに・・・部屋数のあまつた宿に 私ひとりが
所在ないあかりの下に その夜から いつも便りを書いてゐた
立原道造
「拾遺詩編」所収
1939