私の足に

私の足に合う靴はない。
私にぴったりする靴は
星の間にでも懸っているだろう。
私は第一靴と云うものを好かないのだ。
足の形につくって足にはめると云うことは
全く俗なことではないか。
それに奴隷的なことでさえある。
私はもっと軽くもっと翼のあるものがいい。
もっと水気があって、もっとたんわりしたものを選ぶ。
そんな風に人々はちっとも考えないのか。
ひさし髪と云うものが当然であった時もあった。
長い裾をひきずらなくては
恥かしくて歩けない時もあった

夜、星のすべすべした中に靴をさがす。
靴型星座をたずねあぐんで、
私のもすそはその時東の暁け方にふれる。
けれども夜があけて私は草の上に立っている。
私の蹠(あしうら)は大方の靴よりも美しい。
そしてこの蹠はいつも飢えているのだ。
そしていつも砂礫に血を流すのだ。

永瀬清子
「山上の死者」所収
1954

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