みんな僕の

みんなぼくの知らないところからあらわれてくる
みんなぼくの知らないところへ消えてゆく
山の小径で 足を投げだしてやすんでいると
左の手くびの上に
一羽のモンキチョウがきてとまる
体内の血が急にあつくなる
ぼくはチョウに生るべきだったのに
どこかでふとしたことからとりちがえられたのかもしれぬ
だからここで たがいの生の軌道が
もういっぺんだけ交叉したのかもしれぬ
あ もう行っちまうのか
さようなら

藤原定
「天地の間」所収
1944

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