発芽

十四歳の冬の朝
雨戸をあけると
光と綿ぼこりの積まれた
学習机の上に
あらゆるイメージが死んでいた
出来事はすでに片付けられ
時間が乾拭きにやってくるのを
待つだけ

学校は蛇のようで
制服に呑まれ
手にはその日ごとに買う電車の切符
ビーナスが林間をさまよおうとも
裳裾をひきずり
隣りに座り直そうとも
私には垂れた腕ばかりの自分しか
確かめられない
夢で 時々
誰かをひどくののしって目が覚めた
(なんとつまらないことを)
とは思わなかった
ただ 満たされた幸福な気持がして
身を起こしてぼんやりした
激しいものが出口を探している
それがなぜ
ニクシミの激しさでしかないのか

十四歳の冬の朝
光と綿ぼこりの積まれた
学習机の上で
私は冬の初めてのにおいをかぎ
イメージの鉄格子から
つばを吐き捨てる人を見た

井坂洋子
地上がまんべんなく明るんで」所収
1994

One comment on “発芽

  1. 「発芽」は井坂様の許諾をいただいた上で掲載しております。
    無断転載はご遠慮ください。

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