ひるすぎ

客あらん時をおもひて
母はわれらが日常の茶碗には
かけたるをいだす
我はかけたる茶碗もて
麦飯をくらふ。
母よ今日は何かありや
けふはひるに誰も居らざれば
何もつくらねど
ここに紫蘇の煮たるあれば
それにてすませよ
母は庭にありて答ふ。
画を描き来りて
ひるすぎ
われはかけたる茶碗もて
麦飯をくらふ
秋なれや
日の光うらうら
木のかげはまどろむ
母よ
わが麦めしはとりわけて今日うまし。

中川一政
「見なれざる人」所収
1921

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