線路に下りて
夢中で餌を啄ばんでいた小さな鳩は
気がつかなったのだ
忽ち
プラットホームに進入してくる電車の
風圧に巻き込まれ
小さな身体が
無惨にも轢殺された
眼の前で
一羽の小さな鳩が死んだとき
隣国から
一人の青年の死が届いた
どこから射ったのか
銃弾が胸を貫き
群衆の見ている前で
仰向けに倒れた
血が流れている右手の先に
コーラの赤い缶が転がっていた
そして
熱い飢餓地帯で母親の痩せた乳房をくわえた
小さな命が
またひとつ絶えた
私がいつも歩いている町では
家の庭に
あじさいの花が咲きはじめ
いま紅色に変ったところだ
上林猷夫
「鳥の歌」所収
1994