帰郷者

自然は限りなく美しく永久に住民は

貧窮してゐた

幾度もいくども烈しくくり返し

岩礁にぶちつかつた後に

波がちり散りに泡沫になつて退きながら

各自ぶつぶつと呟くのを

私は海岸で眺めたことがある

絶えず此処で私が見た帰郷者たちは

正にその通りであつた

その不思議に一様な独言は私に同感的でなく

非常に常識的にきこえた

(まつたく!いまは故郷に美しいものはない)

どうして(いまは)だらう!

美しい故郷は

それが彼らの実に空しい宿題であることを

無数の古来の詩の賛美が証明する

曽てこの自然の中で

それと同じく美しく住民が生きたと

私は信じ得ない

ただ多くの不平と辛苦ののちに

晏如として彼らの皆が

あそ処で一基の墓となつてゐるのが

私を慰めいくらか幸福にしたのである

 

伊東静雄

わがひとに与ふる哀歌」所収

1935

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