それでは計算いたしませう

それでは計算いたしませう

場所は湯口の上根子ですな

そこのところの

総反別はどれだけですか

五反八畝と

それは台帳面ですか

それとも百刈勘定ですか

いつでも乾田ですか湿田ですか

すると川から何段上になりますか

つまりあすこの栗の木のある観音堂と

同じ並びになりますか

あゝさうですか、あの下ですか

そしてやっぱり川からは

一段上になるでせう

畦やそこらに

しろつめくさは生えますか

上の方にはないでせう

そんならスカンコは生えますか

マルコやヽヽはどうですか

土はどういうふうですか

くろぼくのある砂がゝり

はあさうでせう

けれども砂といったって

指でかうしてサラサラするほどでもないでせう

掘り返すとき崖下の田と

どっちの方が楽ですか

上をあるくとはねあげるやうな気がしますか

水を二寸も掛けておいて、あとをとめても

半日ぐらゐはもちますか

げんげを播いてよくできますか

槍たて草が生えますか

村の中では上田ですか

はやく茂ってあとですがれる気味でせう

そこでこんどは苗代ですな

苗代はうちのそば 高台ですな

一日いっぱい日のあたるとこですか

北にはひばの垣ですな

西にも林がありますか

それはまばらなものですか

生籾でどれだけ播きますか

燐酸を使ったことがありますか

苗は大体とってから

その日のうちに植えますか

これで苗代もすみ まづ ご一服してください

そのうち勘定しますから

さてと今年はどういふ稲を植えますか

この種子は何年前の原種ですか

肥料はそこで反当いくらかけますか

安全に八分目の収穫を望みますかそれともまたは

三十年に一度のやうな悪天候の来たときは

藁だけとるといふ覚悟で大やまをかけて見ますか

 

宮沢賢治

「補遺詩篇」所収

1933

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください