ぶくろ界隈夕景

陽が暮れて
街街の 仕切られた灰色の窓が
バタバタと落ちはじめる
まっ先に 微かな音が
エスカレーターの段差が硬くたたまれるようにして
世の中の寸法を合せてしまうと
このあたりでは すんなりした脚で有名な
娼婦が ひときれの肉を煮る銅鍋を抱えて
過去に抱かれるようにぼんやりと
どこかへ向って馳けていく 誰も知らないところへ

雲が星によって閉じつけられるのか
星が雲によってくだかれたか
街街の部屋の片隅で
女たちが ひどい脱色のために
細くなった髪の流れを
きついピンクのクリップで捲きあげて
産み落した筈の影の子供に
何ごとかささやいているのがみられた
ときには小さな庭の
トウモロコシの 青くむくんだ葉かげで
のびのびとおしっこをする隣家の女もある
捨て猫とならんでじっとして
そこを吹く風は闇によって
殊更涼しいにちがいない

森原智子
1999

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