白いシクラメン

いま
ちょうどななつめのしくらめんのはなが
ひらいたところです
はくちょうよりもしろく
うなじをたかくもたげて
いま ちょうど
ななつめのしくらめんのはなが
さいたばかりです
しはすのしろいひかりのなかで
はねをこころもちうしろにひいて
いまにもとびたとうとするちょうのような
ななつめのしろいしくらめんのはなを
ただひたすらみつづけていると
せかいはひどくしずまりかえり
すきとおり
なにもかもがまるで
えいがのらすと・しいんのように
うつくしくとおざかっていくのがわかります
なぜあれほど
たったひとつのらちもないことばに
こだわりつづけていたのだろう
なぜにくむのかなぜかなしむのか
わたしのなかで
ほぐしようもなくむすぼれていたおもいが
しろいしくらめんのはなびらのうえを いま
やわらかくほどけながらとおくとおく
とおざかっていくのがみえます

征矢泰子
「綱引き」所収
1977

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