言葉の迷路は暗くて長いから
文法と友好条約を結ぶことにする
文法はわたしよりずっと背が高い
力を合わせたらいいだろう
昔の敵意を忘れようとして
握手するとき わたしたちの手が
小人と巨人の手に見える
話の口火を切るのは文法
不信を抱いたまま
わたしたちは簡単な会話を交わす
そして 何度も右に曲がったり
左に曲がったりしているうちに
いつのまにか道案内を
文法に任せている
ある日起きたら 文法はいない
いつもより明るい朝に導かれて
探すが見当たらない
仕方がなく一人で歩き出す
暫くして 文法はまた現れる
肩を並べて歩くと 二人とも
同じ身長になっているのに気づく
文法のいない朝が多くなると
わたしの疑いが少しずつ膨らむ
文法は力強い外形を失って
時間が逆戻りしているように
声が高くなって 筋肉が溶けて
わたしのとなりに少年が残る
言葉を交わさない日々が増える
いま 文法は既に幼児
すぐ 歩けなくなる
言葉は喃語になりつつ
迷路を進むのはもう
わたしの責任になった
地図もコンパスもないが
朝がもう眩しくなっている
光に導かれて 近いうちに
出口が見つかるだろう
そして そのとき
わたしは言語の迷路から
誇らしげに出るのだ
むかし文法だった胎児を
身のうち深く宿しながら
ジェフリー・アングルス
「わたしの日付変更線」所収
2011
「文法のいない朝」はジェフリーさんの許諾をいただいた上で掲載しております。
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