無題

石見の海

角の浦廻を

浦なしと

人こそ見らめ

潟なしと

人こそ見らめ

よしゑやし

浦はなくとも

よしゑやし

潟はなくとも

鯨魚取り

海辺を指して

和田津の

荒礒の上に

か青なる

玉藻沖つ藻

朝羽振る

風こそ寄せめ

夕羽振る

波こそ来寄れ

波のむた

か寄りかく寄り

玉藻なす

寄り寝し妹を

露霜の

置きてし来れば

この道の

八十隈ごとに

万たび

かへり見すれど

いや遠に

里は離りぬ

いや高に

山も越え来ぬ

夏草の

思ひ萎へて

偲ふらむ

妹が門見む

靡けこの山

 

柿本人麻呂

万葉集」所収

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