黙つてゐる蝉

手の掌にのせても
ひっくりかへしても
黙ってゐる蝉
強かった羽根の力も今は失せたが
苦しくても
さびしくても
じっとこらへてゐるやうに
何事も語らない
強い引きしまった鋼鉄色の
ぐわんけんな身体も今は弱ったが
時々なにをか思ふ羽ばたきして
黙って
短い一生を送らんとする

中川一政
「見なれざる人」所収
1921

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