北半球に、ひるがおの花が、咲きひらくころ、ぼくは、性的な夢を、みなくなる。長いあいだ、ぼくは、そのことに気付かなかったが、ぼくの瞳孔を、覗きこんでいた医師が、ある日、その事実を、ぼくに、告げた。北半球に、ひるがおの花が、咲きひらくころ、ぼくの瞳の虹彩は、まるで、死界に咲きひらく花のように、精いっぱいに、ひらかれるという。だから、ぼくの内部には、おびただしい量のひかりが入りこみ、乱反射して、いかなる夢も、その像を、結ぶことが、できないというのだ。
父の話しでは、北半球に、ひるがおの花が、咲きひらくころ、ぼくの若い母は、死んだという。母のしろく、美しい乳房を、癌が、犯していて、まだ幼なかったぼくは、しきりに、すでに抉りとられた、母の乳房の幻影を、まさぐっていたと、いうのだ。それが、ぼくが性夢をみなくなる原因であるということが、わかったとき、ぼくは、ぼくの内部にあふれる、白いひかりのなかで、涙を流した。
だから、北半球に、ひるがおの花が、咲きひらくころ、ぼくは、生まれたばかりの、ぼくの手が、まさぐっていた、癌の感触と、母の、しろく美しい乳房の幻影を、無意識のうちに、想い浮かべ、そのとき、ぼくの瞳の虹彩は、まるで死界に咲きひらく花のように、精いっぱいにひらかれて、ぼくは、性的な夢を、みなくなるのだ。
高岡修
「水の木」所収
1987
「性的な夢」は高岡様の許諾をいただいた上で掲載しております。
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高岡修ホームページ
http://kagoshima2.com/takaokaosamu/
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